「発信者情報開示請求」は誹謗中傷などを受けた者が、投稿した本人を特定し権利侵害の責任を追及するための制度です。
プロバイダから送られてくる「発信者情報開示に係る意見照会書(通称意見照会書)」は、投稿者の住所や氏名を相手に開示してよいかという確認の通知ですが、拒否することも可能です。ただ、拒否した場合リスクになる状況も多く、素直に応じたほうがいい場合があるでしょう。
この記事では、発信者情報開示請求を拒否したらどうなるのか、流れも踏まえて解説します。
実際の事例や拒否する場合の書き方もまとめましたので、悩んでいる方は是非参考にしてください。
発信者情報開示請求とは【簡単解説】
発信者情報開示請求とは、インターネット上で他者の権利を侵害したとされる発信者の情報(氏名、住所、メールアドレスなど)を、プロバイダやサイト管理者に対して開示することを求める制度です。この制度は、被害者が発信者に対して損害賠償や差止めなどの法的手段をとるために必要な情報を得ることを目的としています。
しかし、発信者情報開示請求には必ず応じなければならないというわけではありません。発信者は、自分のプライバシーや表現の自由が侵害されることを理由に、開示請求を拒否することができます。
発信者開示請求は拒否できる?書き方と流れ
発信者情報開示請求はそもそも拒否できる?書き方について
「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いても拒否はできます。
書き方としては書面の「発信者情報開示に同意しません」に〇を付けます。
そして、意見照会書には、「理由」を記載する欄があると思います。
理由の欄はしっかりと記載しましょう。
たとえば下記のようなものです。
✓請求者個人を特定してなされたものではない(同定可能性がない)
✓名誉やプライバシーなどが侵害されていない(そもそも権利侵害がない)
✓身に覚えが一切ない(第三者による侵害行為)
などです。
たとえば、相手が名誉毀損を主張した場合には、成立する要件として「特定性」が必要です。
そのため、誰を指しているかがはっきりしない投稿であれば、「特定性が認められないこと」を根拠として名誉毀損が成立しないと主張できる可能性があります。
反論には法的な根拠を示すことが重要です。ただ、ここで「何となく怖いから拒否しておこう」と何も考えずに拒否してしまうのはリスクがあります(後述)。
意見照会書が届いたら、ネットトラブルに詳しい相談員や弁護士に相談し、回答について助言を得ることをおすすめします。
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発信者情報開示請求を拒否した後の流れ | 開示される可能性はある?
プロバイダは、意見照会書の契約者の回答を元に、発信者情報を開示するかどうか決めます。ただ、契約者が開示に同意しない限り、プロバイダが任意に発信者情報を開示するというケースは滅多にありません。
必要がないにもかかわらず契約者の個人情報を開示したとして、契約者側からプロバイダに対して、損害賠償請求をされてしまうリスクがあるためです。
また、意見照会書を無視した場合でもプロバイダが発信者情報を開示することはほとんどありません。
ただ開示請求を拒否した後に、開示請求した側は裁判手続きによって投稿者の個人情報を開示するように申立てていく可能性が高いです。
そして、プロバイダが任意に発信者情報を開示しないとしても、名誉毀損等の権利侵害がある場合には裁判にて発信者情報の開示が認められることがあります。
発信者開示請求を拒否した場合のリスク
「意見照会書への回答に関わらず開示されるなら、とりあえず拒否しておけばいいのでは?」と思う人もいるかもしれません。ただ「開示を拒否した後に結局裁判で発信者情報が開示された」という場合には大きなリスクがあります。
損害賠償が高額になってしまう可能性がある
任意での開示請求を拒否された場合、請求者は裁判所に開示請求を申し立て、裁判手続きによって強制的に個人情報を開示する形になります。
投稿者を特定した後、損害賠償請求をする際には開示に要した交通費・手続き費用・弁護士費用を上乗せして請求されてしまいます。
相手に手間と費用を掛けさせてしまうと、結果的にその分の損害賠償額が増えてしまいます。
意見照会書に心当たりがなく「自分のの投稿が相手の権利を侵害していないことが明白」であれば、拒否することで、無条件で情報が開示されることを防げますが、「明らかに権利侵害している」場合は裁判手続きで開示請求されることを覚悟した方がいいでしょう。
開示請求側との示談が困難になる
開示請求を拒否したことは、開示請求側に伝わります。
意見照会書に応じないことで、反省がないと思われても仕方ありません。
拒否の後に開示側の裁判手続きによって投稿者が判明した場合、示談を拒否され損害賠償請求訴訟を提起されることもあります。その場合「裁判所が開示される理由としてもっともだと判断している」ため、損害賠償請求訴訟も認められやすく、高額のものになる可能性があります。
意見照会書に応じて示談を行えば請求額の減額も認められたかもしれません。
刑事事件にまで発展する可能性がある
開示請求を拒否したことで請求者の被害者感情が増大し、刑事事件に発展する恐れもあります。
ネット・SNS上の書き込みは以下の罪に該当すると判断される場合があります。
・名誉毀損罪(刑法230条1項)
・侮辱罪(刑法231条)
・業務妨害罪(刑法233,234条)など
相手から刑事告発されれば、刑事事件として捜査対象になる可能性があります。
上記の罪に加えて、投稿内容によっては脅迫罪が成立することもあります。
投稿が悪質な場合は逮捕・勾留され、20日以上の取り調べを受けるでしょう。
刑事事件では、被害者との示談成立が減刑の大きな要因となりますが、任意の開示を拒否したことで被害者感情を逆なでされた請求者が示談を拒否し、厳罰を望む可能性もあるでしょう。
ツイッター・トレントなどで開示請求を拒否した例
拒否しても何も起こらなかった場合1 twitterのケース
意見照会書に応じず何も起きなかった場合のケースを紹介します。
Aさんは、ツイッター上で政治家のBさんに対して批判的なツイートをしました。Bさんは、Aさんのツイートが名誉毀損であるとして、プロバイダに対して任意の請求による開示請求を行いました。プロバイダは、Aさんに対して開示請求の通知を送りましたが、Aさんは開示請求を拒否しました。Aさんは、自分のツイートは事実に基づくものであり、公益性が高く、表現の自由の範囲内であると主張しました。また、Aさんは、Bさんが多数のツイッターユーザーに対して同様の開示請求を行っており、その目的が不明確であることを指摘しました。プロバイダは、Aさんの意見を尊重し、開示請求を拒否しました。Bさんは、裁判所に仮処分命令による開示請求を行うこともできましたが、その費用や手間を考えて断念しました。そのため、Aさんは何も問題にならずに済みました。
開示側に「開示できる証拠となる書き込み」がない場合、裁判手続きがされないケースもあるようです。
拒否しても何も起こらなかった場合2 トレントのケース
ある映画製作会社がBitTorrent(トレント)で違法ダウンロードされたと主張し、プロバイダに対して発信者情報開示請求を行いました。その中には、山田太郎という名前のユーザーも含まれていました。山田太郎は、その映画をトレントでダウンロードしたことを認めましたが、任意の開示請求を拒否しました。彼は、その映画が公開前に流出したものであり、自分はそれを知らずにダウンロードしたと主張しました。また、その映画は自分の趣味ではなく、見る気もなかったと言いました。
映画製作会社は、山田太郎の言い訳を信じず、裁判所に発信者情報開示請求訴訟を起こしました。しかし、裁判所は山田太郎の主張を認め、開示請求を却下しました。裁判所は、以下の理由でその判断を下しました。
・山田太郎の主張は合理的である。公開前に流出した映画はインターネット上に多数存在し 、それらを知らずにダウンロードする可能性は十分にある。また、その映画が自分の趣味ではないということもあり得る。
・映画製作会社の損害は軽微である。山田太郎はその映画を見る気もなく、他人にも共有しなかったという。したがって、その映画の興行収入に影響を与えたとは言えない。
トレントでの違法ダウンロードはもちろん犯罪ですが、裁判で開示請求されない場合もあるようです。
インスタで開示請求を拒否しトラブルになった例
ある芸能人がインスタグラム(インスタ)で自分のプライベートな写真を投稿しました。その写真には、彼女の恋人と思われる男性が一緒に写っていました。しかし、その男性は実は既婚者であり、彼女は不倫関係にあったのです。その写真を見た妻は激怒し、芸能人に対して発信者情報開示請求を行いました。
芸能人は、自分のプライバシーを守るために、開示請求を拒否しました。彼女は、その写真は自分の友人と撮ったものであり、男性とは恋人ではないと主張しました。また、その写真はすでに削除したと言いました。
妻は、裁判所に発信者情報開示請求訴訟を起こしました。裁判所は妻の主張を認め、開示請求を認めました。裁判所は、以下の理由でその判断を下しました。
妻が提出した証拠は十分である。スクリーンショットから、芸能人と男性が親密な関係にあることが明らかである。また、男性の顔や身体的特徴も確認できる。
芸能人の主張は不合理である。友人と撮った写真であれば、なぜ削除したのか説明できない。また、男性と恋人ではないということも証明できない。
妻の損害は重大である。芸能人がインスタで公開した写真は、妻の名誉や感情を傷つけた。また、夫婦関係にも深刻な影響を与えた。
このようにして、芸能人は発信者情報を開示されることになりました。芸能人は示談を行おうとしましたが、妻は拒否、さらに、妻は芸能人に対して慰謝料や損害賠償を請求しました。裁判所は妻の請求を受け入れ、芸能人に対して500万円の支払いを命じました。
このようにして、任意の開示請求を拒否した後、トラブルになり多額の損害賠償を支払うことになるケースも中にはあります。
発信者情報開示請求を拒否するかどうかの判断基準
発信者情報開示請求の根拠となる権利侵害が成立しているかどうか
例えば、名誉毀損やプライバシー侵害などの権利侵害が成立するためには、「特定性」や「公共性」などの要件が必要です。
そのため、誰を指しているかが明らかでない書き込みや、公益性の高い事実の告知などは、権利侵害にあたらない可能性があります。
発信者情報開示請求に対する正当な理由があるかどうか
例えば、損害賠償や刑事告訴などの目的で発信者情報の開示を必要とする場合は、正当な理由と認められる可能性があります。
そのため、単に発信者の身元を知りたいだけや、嫌がらせや恐喝などの目的で発信者情報の開示を求める場合は、正当な理由と認められない可能性があります。
発信者情報開示請求を拒否できるか分からない・悩んでいる場合の解決策
開示に同意すれば、自分の個人情報が知られてしまうかもしれません。開示を拒否すれば、訴訟に発展するかもしれません。どちらを選ぶべきか、分からない・悩んでいるという方も多いと思います。
そんなときは、ネットトラブルに詳しい相談員・弁護士に相談しましょう。相談員・弁護士はあなたの状況や主張に応じて、最適な対応策を提案してくれます。また、あなたの個人情報を守秘義務のもとで扱ってくれます。相談することで、発信者情報開示請求に対する不安や迷いを解消することができるでしょう。
発信者情報開示請求は、インターネット上での自由な表現とプライバシーの保護という、重要な権利に関わる問題です。そのため、自分で判断するのは難しいかもしれません。しかし、専門家の助けを借りることで、より安心して対処することができます。発信者情報開示請求に関する意見照会書が届いたら、まずは相談員・弁護士に相談してみましょう。
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