AI(人工知能)がイラストや画像を生成する技術が進化し、インターネット上で多くの作品が公開されています。しかし、AIイラストには著作権は発生するのでしょうか?
また、AIイラストが他人の作品と類似していたり、無断で利用されたりした場合はどうすればいいのでしょうか?
この記事では、AIイラストの著作権侵害の現状と問題点、今までの著作権侵害の事例を紹介します。それを踏まえ、AIイラストで著作権侵害になる場合、被害にあった際の対処法、予防法などについて解説します。
悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
AIイラストとは?定義と著作権侵害の現状について
そもそもAIイラストとは?
まずはじめに、AIイラストとはどのようなものとして定義されるのでしょうか?
AIイラストとは、AIがテキストや画像などを入力として受け取り、それに基づいて新しいイラストや画像を生成することで作られるものです。例えば、「赤いドレスを着た女性」というテキストを入力すると、AIがそのようなイラストを描いてくれるという仕組みです。
AIがイラストや画像を生成する技術は、近年急速に発展しています。特に2022~23年はMidjourney(ミッドジャーニー)やStable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)など、高品質な画像生成AIが相次いでリリースされ、「画像生成AI元年」と呼べるような1年になりました。
AIイラストの著作権侵害の現状と問題
しかし、このような技術の進化に伴って、著作権侵害の問題も深刻化しています。以下に、現状起こっている問題をいくつか挙げます。
- AIが既存の著作物を学習して生成した画像が、元の著作物と類似している
- AIが生成した画像が他人に無断で利用されたり、改変されたりする
- AIが生成した画像が商用利用されたり、販売されたりする
これらの問題は、AIイラストに著作権が発生するかどうかという法的な判断が難しいことや、利用者や提供者間で著作権の扱いについての認識がずれていることなどが原因となっています。
では、AIイラストに著作権は発生するのでしょうか?
著作権侵害に関わる法律、今までの著作権侵害の事例についてまずは考えてみましょう。
著作権侵害とは?根本にある考え方
著作権とは?そもそも何?
著作権とは、思想や感情を創作的に表現したもの(著作物)に対して、その作者(著作者)が持つ権利のことです。著作権は、著作者が自分の作品を公表したり、複製したり、改変したりすることを許可したり、禁止したりすることができる権利(複製権や公表権など)と、自分の名前を表示したり、不正な改変や評価を防いだりすることができる権利(氏名表示権や同一性保持権など)に分けられます。
著作権侵害とは、著作者の許可なく、これらの権利を侵害する行為のことです。例えば、他人の作品をコピーして販売したり、無断で改変したり、出典を明記せずに引用したりする場合などが該当します。
AIイラスト以前の著作権侵害になるケースや事例
イラストや漫画で著作権侵害になるケース
イラストや漫画で著作権の問題になるケースは、主に以下のようなものがあります。
・画像生成AIを使って、他人のイラストや漫画を無断で改変し、別の作品として公開すること。
・キャラクターを無断でコピー(複製)したり、トレース(複写)したり、名前だけを使用したりすること。
・著作権フリーとされているイラストや漫画を、実際には許可なく利用すること。
・社内資料やキャラクター商品に、他人のイラストや漫画を無断で使用すること。
これらの行為は、著作権者の権利を侵害する可能性があり、最大10年の懲役や最大1000万円の罰金などのペナルティを受ける恐れがあります。
イラストや漫画を利用する場合は、著作権者から著作権の譲渡やライセンス契約を受ける必要があります。また、画像生成AIを使用する場合は、元となった著作物の明示や使用料の支払いなどのルールを守る必要があります
実際に著作権侵害が認められた事例を紹介します。
実際に漫画やイラストにおいて著作権侵害が認められた事例
イラストや漫画制作においても、著作権侵害は起こり得ます。以下に、過去に起きた事例をいくつか紹介します。
これらの事例は、著作権法で定められた複製権や公表権などの著作権を侵害するものであり、著作者や出版社は損害賠償や差止などの民事的な救済や、刑事罰の適用を求めることができます。
中学校の学校通信にイラスト無断掲載:去年、川崎市の市立中学校が学校通信にイラストを無断で掲載していたとして、市は、著作権者のイラストレーターに11万円の賠償金を支払ったことを明らかにしました。イラストは県外のイラストレーターが描いたスイカや風鈴などで、生徒や町内会に配布したほか、学校のホームページにも掲載していました。
漫画村事件:インターネット上で違法にアップロードされた漫画を無料で閲覧できるサイト「漫画村」が、多数の出版社や漫画家から著作権侵害で訴えられた事件です。サイト管理者はフィリピンで逮捕され、日本へ送還されました。サイトは約6億5000万回もアクセスされており、出版業界に大きな被害を与えました。
鬼滅の刃グッズ販売:大人気漫画・アニメ「鬼滅の刃」のキャラクターを無断で使用したグッズを販売したとして、今年1月から3月にかけて全国各地で多数の人が逮捕されました。グッズはTシャツやマスクなどで、インターネットオークションやフリーマーケットアプリなどで販売されていました。
著作権侵害が行われても逮捕につながりにくいケース
著作権侵害が行われても逮捕に繋がらないケースは多いです。
著作権侵害行為の発見が困難な場合
インターネット上には数多くのサイトやアカウントが存在し、その中には著作権侵害行為を隠蔽するために、パスワードや招待制などの制限をかけたり、サイトの移転や閉鎖を繰り返したりするものもあります。このような場合、著作権侵害行為の発見や証拠収集が困難になり、摘発に至らないことがあります。
著作権侵害行為の証明が困難な場合
著作権侵害行為を立証するには、被告が無断で著作物を使用したこと、被告がその使用によって利益を得たこと、原告がその使用によって損害を受けたことなどを証明する必要があります。しかし、これらの事実を明確に示すことは容易ではありません。例えば、被告が自分で描いたと主張するイラストが、原告のイラストと類似している場合、その類似度や創作性などを判断する基準は明確ではありません。このような場合、著作権侵害行為の証明が困難になり、有罪判決に至らないことがあります。
著作権侵害行為の刑事告訴がされない場合
著作権侵害行為は、原則として被害者(著作権者等)の刑事告訴がなければ公訴を提起できません。しかし、被害者は刑事告訴をするかどうかの選択肢を持っており、刑事告訴をしない理由としては、以下のようなものが考えられます。
- 被害者自身が著作権侵害行為に気づかない場合
- 被害者自身が著作権侵害行為に対して寛容である場合
- 被害者自身が刑事告訴による時間や費用の負担を嫌う場合
- 被害者自身が刑事告訴による社会的な影響を恐れる場合
- 被害者自身が刑事告訴よりも民事訴訟や和解などの方が有利だと考える場合 このような場合、刑事告訴がされず、逮捕に至らないことがあります。
以上のように、漫画やイラストに対して著作権侵害が行われていても中々逮捕に繋がらないケースは、様々な要因によって発生する可能性があります。しかし、これらのケースは、著作権侵害行為が許されることを意味するものではありません。
AIイラストで著作権侵害になる可能性が高いケース
では、過去の事例を踏まえて、AIイラストで著作権侵害になる場合はどのようなものがあるのでしょうか?以下に、具体例をいくつか紹介します。
- AIが既存の著作物を学習して生成した画像が、元の著作物と類似している場合
AIが生成した画像に既存の著作物との類似性(創作的表現が同一又は類似であること)や依拠性(既存の著作物をもとに創作したこと)が認められれば、著作権侵害となります。例えば、AIが有名なイラストレーターや漫画家の作風やタッチを学習して生成した画像が、そのイラストレーターや漫画家の作品と混同されるような場合や、AIが特定のキャラクターの特徴やポーズを学習して生成した画像が、そのキャラクターの肖像権やキャラクター造形権を侵害するような場合などが該当します。
- AIが生成した画像が他人に無断で利用されたり、改変された場合
AIが生成した画像に著作権が発生している場合(人間がAIを道具として使って創作的に表現した場合)、その画像を他人が無断で利用したり、改変したりすることは著作権侵害となります。例えば、AIが生成した画像を他人がSNSやブログにアップロードしたり、商用利用したりする場合や、AIが生成した画像を他人が加工したり、切り取ったりする場合などが該当します。
- AIが生成した画像が商用利用されたり、販売された場合
AIが生成した画像に著作権が発生している場合(人間がAIを道具として使って創作的に表現した場合)、その画像を商用利用したり、販売したりすることは、著作者の許諾が必要です。例えば、AIが生成した画像を商品やグッズに使用したり、イラスト集やポスターなどに印刷して販売したりする場合などが該当します。
しかし、過去の事例からも分かるように、著作権侵害であった場合でも逮捕や法的措置が行われないケースも多数出てくると思われます。
AIイラストの著作権侵害にあった際の対処法
AIイラストの著作権侵害にあった場合、どのように対処すればいいのでしょうか?以下に、対処法をいくつか紹介します。
損害賠償や差止などの民事的な対処を行う
著作権侵害を行っている者に対しては、著作者や出版社は、損害賠償や差止などの民事的な救済を求めることができます。これには、弁護士に依頼して裁判を起こす方法や、和解交渉を行う方法などがあります。ただし、これらの方法は時間や費用がかかることや、相手方の情報が分からないことなどの問題があります。
刑事罰の適用を求める
著作権侵害を行っている者に対しては、著作者や出版社は、刑事罰の適用を求めることもできます。これには、警察や検察に告訴・告発する方法があります。ただし、これらの方法は、公訴時効(告訴・告発から3年以内)や被害額(100万円以上)などの要件があります。
インターネット上での削除やアクセス遮断を求める
著作権侵害を行っている者に対しては、著作者や出版社は、インターネット上での削除やアクセス遮断を求めることもできます。これには、インターネットプロバイダーやウェブサイト運営者などに削除要請やアクセス遮断要請をする方法があります。ただし、これらの方法は、相手方の協力が必要であることや、法的な拘束力が弱いことなどの問題があります。
AIイラストの著作権侵害に遭わないための予防法
AIイラストの著作権侵害を防ぐためには、どのようなことに注意すればいいのでしょうか?以下に、予防法をいくつか紹介します。
AIイラストサービスの利用規約や注意事項をよく読む
AIイラストサービスを利用する際は、利用規約や注意事項をよく読んでください。サービスごとに異なりますが、AIイラストサービスでは、生成した画像の著作権や利用範囲などについて定めている場合があります。例えば、「生成した画像は個人的な目的でのみ利用可能であり、商用利用や再配布は禁止されている」「生成した画像はAIが自動的に削除されるため、保存する場合は自己責任で行う」などといった内容です。これらの規約や注意事項に違反すると、サービス提供者から損害賠償や差止などの請求を受ける可能性があります。
AIが生成した画像が既存の著作物と類似していないか確認する
AIが生成した画像が既存の著作物と類似している場合、著作権侵害となる可能性があります。特に、AIが特定のイラストレーターや漫画家の作風やタッチを学習して生成した画像や、特定のキャラクターの特徴やポーズを学習して生成した画像に注意が必要です。これらの画像を無断で利用したり、改変したりすると、著作者や出版社から損害賠償や差止などの請求を受ける可能性があります。また、キャラクター造形権や肖像権などの他の権利も侵害する可能性があります。AIが生成した画像を利用する際は、既存の著作物と類似していないか確認しましょう。
AIが生成した画像を商用利用したり、販売したりする場合は、著作者の許諾を得る
AIが生成した画像に著作権が発生している場合(人間がAIを道具として使って創作的に表現した場合)、その画像を商用利用したり、販売したりすることは、著作者の許諾が必要です。例えば、AIが生成した画像を商品やグッズに使用したり、イラスト集やポスターなどに印刷して販売したりする場合は、著作者の許諾を得る必要があります。著作者の許諾を得る方法は、サービス提供者や著作者に直接連絡する方法や、ライセンス契約を結ぶ方法などがあります。ただし、これらの方法は、相手方の協力が必要であることや、費用がかかることなどの問題があります。
まとめ
AIイラストに関する法律問題は、まだまだ発展途上の分野です。AIの技術や利用形態が日々変化していく中で、著作権法も適切に対応していく必要があります。また、自分の作品がAIによって無断で利用されたり、改変されたりすることに不安を感じる場合は、自己防衛策を取ることも大切です。例えば、作品に透かしや署名を入れたり、サイト上での画像の保存やコピーを制限したりすることなどが考えられます。AIイラストは、クリエイティブな活動において大きな可能性を秘めています。しかし、その一方で、様々な法的なリスクも伴います。AIイラストの利用者や提供者は、これらのリスクを十分に認識し、適切に対処することが求められているといえるでしょう。
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